東京高等裁判所 昭和42年(う)1813号 判決
被告人 竹折司一
〔抄 録〕
所論は、本件のごときいわゆる必要的弁護事件でない事件においても、裁判所が審理の経過において実刑を科するのが相当であるとの心証を得た以上、刑事訴訟法第三七条第五号により、職権をもつて弁護人を付すべきであるのに、原審は弁護人を付さずに審理し、実刑の判決をしたのは憲法および刑事訴訟法の精神に反して違法であると主張するが、刑事訴訟法第三七条第五号にいわゆる「その他必要と認めるとき」とは、同条第一号ないし第四号の規定と対比して検討すれば、結局、被告人が公判廷において、事実上または法律上の争点に関し、正当に自己の権利を主張し、または防禦をなしうる能力に欠ける疑いの存する場合をいうものと解すべく、その必要の有無は、被告人の年令事件の内容、争点に応じ、事前に、あるいは審理の経過に応じて、客観的に判断すべきものと解するのが相当であり、裁判所が審理に当り、常に必らずしも職権で弁護人を付さねばならないものではない。本件記録によれば、被告人は、公訴が提起されたのち、裁判所から国選弁護人の選任を求めるかどうかの照会を受けたのに対し、弁護人は要らない旨回答し、第一回公判期日においては公訴事実を総て認める旨の供述をなし、その後の公判においても事実を争わず、また、捜査段階においても事実を争つた形跡はないのであるから、これを被告人の年令、公判廷における供述の態様(公判調書参照)、事案の内容に照らして考察すれば、原審が職権をもつて国選弁護人を付さなかつたからといつて直ちに憲法ないし刑事訴訟法の精神に反するものとは認めがたく、また、原審は、証人三名を喚問し、同証人および被告人に対し、示談について種々審理を尽していることもまた記録上明白であるから、弁護人を付さなかつたからといつて、被告人の防禦権の行使に完うされないものがあるとか、不当に被告人の権利を侵害したとか、あるいは、審理を尽さなかつた違法があるともいえない。所論は、被告人が、当初、裁判所の照会に対し弁護人を要しない旨回答したのは、顔見知りの警察官から、本件は罰金刑ですむだろうから、弁護人を付して金を使うことはない旨の示唆を受けたためであると主張するが、かかる事情は被告人自ら裁判所に申し立てるのでなければ、裁判所としてもこれを忖度するに由なく、その他記録によつても、原審においてかかる事情の存することを窺い得たものとも認めがたいのであるから、所論のような経緯があつたからといつて原審の措置が違法ないし不当であつたとはいえない。論旨は理由がない。
(三宅 石田一 金)
(註 本件は量刑不当で破棄)